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 ――いや、隆弥の女体化に萌えてる場合じゃなくて。
「で、なんで?」
「だから、『俺は弘美を幸せにできてないのかな』って思って!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「リュウってば本当、男にしておくの惜しいわね!」
「うるせぇ」
 あたしの顔まで赤くなってそう。下手したらコイツ、あたしより乙女してる。
「リュウ」
「なんだよ」
 むくれてる隆弥に勢いよく抱きつくと、そのまま押し倒してしまった。マウントポジションだ。まぁいいか。すだれよろしく垂れ下がるあたし自身の髪をかき上げる。髪をのばしてるのは完全に趣味なんだけど、こういうときジャマね。まぁいいか。
「リュウ」
「なんだよ」
「あたしはちゃんと、幸せよ。安心して」
 遠慮なく口づける。礼儀として目は閉じておいた。礼儀じゃないけど、相手をガン見したままキスするなんてとてもシラフじゃできないわね。あたしも隆弥も未青年だけど。
「なんでそんなこと考えちゃうわけ?」
「だって、『作品は作家だ』っていうじゃん」
 いうけど。まずは「作品」=「あたし」ね。
「で、弘美の作品って幸せじゃないじゃん」
 それは認める。じゃあ、「作品」≠「幸せ」? ってことは……
「それじゃあ『弘美は幸せじゃない』ってことになる」
 つまり、「あたし」≠「幸せ」? あぁ、なるほどね。そういうこと。
「そんなこと気にしてたの?」
「……結構」
「愛(う)いやつめ」
「『ウイ』って何?」
 ここに来てお約束かよ。間違ってもフランス語の「ウイムツシュー」の「ウイ」じゃないから。
 まぁいいか。なんか今は妙に幸せだから、隆弥のバカっぷりもキス一つで許してやろう。少し硬めの短髪を撫(な)で梳(す)く。もう一度唇を重ねて、あたしたちは起きあがった。そうしながら、あたしの頭の一部はずっと、隆弥を安心させる理屈をさがしていた。
 あたしは幸せなのだ、本当に。時々ブルー入ったりするけど、隆弥といれば大体は上機嫌だ。なのにどうして、「作品」≠「幸せ」になってしまうんだろう。
「あのね、リュウ。確かにあたしの作品はあたしの一部。あたしが書いてんだから当然よね」

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