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「俺ってあんまり弘美の幸せに関係ない?」
「は?」
 部屋に戻るなりの言葉に、あたしは思わず訊(き)き返していた。疑問に疑問で答えちゃいけないっていうのは分かってるけど、でも「は?」って感じよね、今のは。突飛なこと言う隆弥が悪いってことで手を打つわ、うん。
「何、イキナリ」
「さっきの話」
 さっき? さっきって、さっき? 確か『国語ができなきゃ英語はできない』って話じゃなかった? それとあたしの幸せと隆弥に何の関係が――って、ああ!
「『なんであたしの作品は失恋ばっかなのか』って話?」
「それ」
 今のってあたしだから意味わかったんじゃない? 話したのあたしだけっていうとこは無視するとしても。別にいいけど。あたしも話とんだりするのはしょっちゅうだし。
「リュウとあたしの幸せと失恋話がどうかしたの?」
「だから、弘美が失恋の話ばっかり書くのって俺のせいかなって」
 二度目の「は?」はぐっとこらえた。隆弥のクセ(?)は、肝心なとこの説明をしないことだ。だからあたしは自分で隆弥の言わんとすることを補完しなければいけない。ある意味パズルだ。
 「あたし」「隆弥」「作品」「幸せ」の四つのピースを=で結んだり≠で外したりしてたらなんか混乱してきた。何をどうしたら「隆弥」⇔「幸せ」≠「あたし」になるわけ?
 理屈で理解しようとしてもさっぱりだったけど、感情ではなんとなく理解ができた、気がした。
「つまりはさ、あたしが失恋の話を書くのは、あたしが幸せではないからで、あたしが幸せではないのはリュウに問題アリと、そういうこと?」
 なんかとんでもない証明をやった後みたいな不安が襲う。フェルマーの最終定理を証明したワイルズもこんな気持ちだったんだろうか。
「そういうこと」
 隆弥は大きくうなずいた。じゃあちゃんと説明しておくれ。
「どういうこと?」
「えっと」
 顔を赤くして隆弥はそっぽを向いた。なんかそういう仕草がやたらに可愛くて、ついクスリとしてしまう。そしたらなんか、ますます隆弥の顔が赤くなった。あーくそう、私が男でアンタが女だったら確実に襲ってるわよ! 神様ってなんて不条理!
 ――いや、隆弥の女体化に萌えてる場合じゃなくて。
「で、なんで?」
「だから、『俺は弘美を幸せにできてないのかな』って思って!」

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