あたしは幸せなのだ、本当に。時々ブルー入ったりするけど、隆弥といれば大体は上機嫌だ。なのにどうして、「作品」≠「幸せ」になってしまうんだろう。
「あのね、リュウ。確かにあたしの作品はあたしの一部。あたしが書いてんだから当然よね」
「うん」
「でも、あたしがしてるのは作文じゃない。『創作』をやってんの。極論しちゃえば嘘八百よ」
「『キョクロン』と『ウソハッピャク』ってどういう意味?」
その疑問は無視してあたしは続けた。本読め。辞書引け。
「あたしの作品は、嘘をつくあたしの一部。もちろんホントのこともあるけど。でも大部分は嘘」
「弘美は嘘つきなんだ?」
「当たり前でしょ。じゃなきゃ人生やってけないって。ねぇ、『嘘』の対義語はなんだと思う?」
隆弥は間髪いれず答えた。
「『真実』」
『対義語』の意味は知ってるのね。
「『嘘』の嘘が『真実』ってことはわかる?」
「なんとか。裏の裏は表、ってこと?」
「そうそう」
よくできました、という意をこめて頭をなでてあげる。どうも、そういう意味だと隆弥は気づいたらしい。変なトコ鋭いやつ。
「じゃあさ、あたしの作品の不幸が嘘なら、あたしはどう?」
「……幸せ?」
「そういうことです」
「そっか。よかった」
神妙な面持ちで隆弥がうなずく。
「だから、あたしがダークな話書いてるからってあんまり気にしないでね」
「全然気にしないってのは無理だけど、まぁ、そういうことならさ」
「うん」
あたしはうなずいて、そっと隆弥とあたしの指をからめた。あたしはあなたとこうしていられて本当に幸せなのだと、その気持ちが通じることを祈りながら。
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