「だってなんか私よりもずっとなんかどっしりしてるし、それになんかすごくなんかやさしいし」
あわてすぎるあまり『なんか』を四回も連発してしまった少女の様子に、少年はほほえむ。
「もちろん、そうですよ。僕は御堂先輩たちより一つ年下の高校一年生です」
少女は自分の前髪をすかして、上目遣いで少年を観察する。
少年の日本人離れした白い肌と、やはり日本人離れして彫りの深めな顔立ちは、どこからどうみても、見慣れたとあいつの顔にはかぶらなかった。少年が女顔だというせいもあるだろう。
実は、最初にみた少年の服装が制服ではなく私服だったせいで、彼女は少年のことを女だと思いこんでいたのだ。身長は彼女よりもずっとたかいが、多分運動を何かやっているからだろうとおもっていた。だから男子の制服をきている少年に学校であったとき、顔から火がでる思いをした。『穴があったらはいりたい』とは、正にあのことだ。
それにしても、目の前の少年は本当に色素がうすい。肌も髪も瞳も、全部『日本人離れ』を通りこして、もはや『外国人』の域にまで達している。実際、英語の能力も大したもので、前に聞いた話によると英検一級を中学生のときにとったらしいし、TOEFLだったかTOEICだったかで六百点を得点した、らしい。
あいつはものすごい運動バカなのに、どうして財部くんはいつも学年一位の秀才で特進クラスなんだろう。特進クラスって、えらばれた人たちしか入れないのに。こういう人って、本当にいるんだなぁ。しかもものすごい身近に。
少年のすごさを知るたびに彼女はいつも、『天は二物をあたえず』という言葉は嘘だと確信してしまう。
「ねぇ、財部くん」
「どうしました?」
「『御堂先輩』って呼ぶのやめない?普通に『芽久利(めぐり)』で、呼び捨てでもいいからさ」
少年に『御堂先輩』とよばれるたびに、何かかゆい様な気がするのだ。
「それじゃあ、御堂先輩も僕のことを『財部くん』ではなくて『耀(あきら)』って呼んでください。僕は御堂先輩より年下ですから」
少女はつまる。かんがえたこともなかった。いわれてみれば、至極もっともな話ではある。
「あ、耀」
最後に『くん』とつけたくなるのを少女は必死でこらえたが、妙な感じがするのは否定できない。
「芽久利」
「うわごめんちょっと待ってやめて」
少女は頭をかかえてうんうんうなる。
「自分からいっといてアレなんだけど、ごめん、やっぱり『御堂先輩』でいい。私も今までどおり『財部くん』ってよぶから」
少年が、はい、と返答するのを確認して、少女は落ちついたように息をついた。慣れないことはするものではない。全身がむずがゆくてしょうがない。
「ごめんね、財部くん。あんまりあいつと声がにてたから」
「え?」
「あ、ほら、輝(ひかる)」
少年の表情に影がさす。少女は自分でいった言葉に自分で顔をあからめている。