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「今日はリンゴなんですね。前回は確かウィンナーで、」
「その前はトマトで、その前の前はキウイで、その前の前の前は、えーと。あれーなんだっけー卵焼きじゃないしなーうーん」
少女は頭を抱えてどうでもいいようなことを真面目になやむ。
「肉の包み焼き、でしたよね?」
「そうそれ!さすが財部くん、にしてもあーもーっくやしー!」
わめきながら、少女は地面をばしばしたたく。
「よかったですね」
「どこが、何がっ!」
少年と少女の様子はまるで、子供の扱いに慣れたベテランの保育士と、うまく丸めこまれていることに気づく由もない子供である。
「そのリンゴは自分のためではなくて、あげるためにあったのでしょう?」
図星をさされて、少女はしぶしぶうなずいた。どうして財部くんはいつも私のことお見通しなんだろう、私ってそんなにわかりやすいヤツかなぁ。見ぬかれる度にいつも少女はそうおもう。
「それなら、そんなに御堂先輩がおこることはないとおもいますし、結果オーライですね。それに、本当は御堂先輩、リンゴはおきらいなのでしょう?」
少女はため息をつく。
「確かにさ、最初っからあげるためにいれてたんだから、別にあげるのがイヤなわけではないのよ?ないんだけど」
グロスでかすかにあかい唇をかむ少女を、少年はみつめる。
「だけどさ、私としてはいきなりたべられるんじゃなくて『どうぞ』とかなんとかいってわたしたかったのに、あいつ」
少女が息を吸いこんだのをみて、少年は耳に指を突っこんだ。
「失敗よ、も――――っっ!!ドアホ――――ぅっ!!!!」
少女のたかい声が、校舎にぶつかってかるくこだまする。声の大きさとさけんだ内容に、校内にいたらしい何人かが廊下の窓をあけて「なんだなんだなんなんだ」とのぞきこむ。彼らの視線を意図的に無視して、少年はおだやかに少女に語りかける。
「落ち着いてください、御堂先輩。それに、機会はいくらでもありますから、気をおとさずに、あきらめずに明日もがんばってください」
少年の言葉に、少女はこっくりと、子供のように素直にうなずいた。肩の力をぬいて、こいため息をつく。
「ねぇ、財部くん」
「どうしました?」
「財部くんって、本当に私より年下なの?」
少年は黒縁の眼鏡の奥の目をかるくみはった。少女はいつだって突拍子のないことを平気でやってのけるが、今のこれは特にそれの極みだ。少年の反応に、少女はあわてて理由をつけくわえる。
「だってなんか私よりもずっとなんかどっしりしてるし、それになんかすごくなんかやさしいし」
あわてすぎるあまり『なんか』を四回も連発してしまった少女の様子に、少年はほほえむ。
「もちろん、そうですよ。僕は御堂先輩たちより一つ年下の高校一年生です」
少女は自分の前髪をすかして、上目遣いで少年を観察する。

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