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「輝ー!私のリンゴかえせー!」
「いいじゃんか別にー!」
「よくないからおこってるんでしょーがー!」
少女と男子生徒の言いあう声がこだまする。しかし、距離がとおいのでどうしても会話は語尾がのびがちであり、語尾だけをきくとなんとも緊迫感がない。
「俺はメグがリンゴ食べないですむようにくったんだ――!」
「え?」
少女の顔がみるみるうちにあかくなっていく。少女はあかくなった顔をかくすように顔をおおった。
「愛されていますね、御堂先輩は」
顔をおおったまま少女はうなずく。
「メグ、上こい!もう授業はじまっぞ!」
「あ、うん、今いく!」
反射的にいいかえし、少女は少年にむきなおった。
「ありがとう、ごめんね、財部くん。なんかどうでもいいようなことに昼休みつかわせちゃって」
少女は居心地悪そうにもじもじする。
「これくらい大丈夫です。よかったですね」
「うん!」
少女はわらう。明るく綺麗な笑顔だった。誰もが魅せられるような。
「これからも応援しています」
「ありがとう!本当に、輝の弟が財部くんでよかった!」
「早くこいメグー!」
「今いくってば!」
ごめんね本当にありがとうとさけびながら、少女は校舎へとはいっていく。後ろ姿を、手をふって少年は見おくる。

中庭で少年は一人だった。さっきまでにぎやかな少女がいたせいもあって、なおさら一人の静かさがひしひしとせまる。
さびしい、とはちがう。隣に誰かがほしかった。たとえば、兄と少女のように。
誰でもいいわけではない。本当に、心の底から望んでやまない、大切な人でないと意味がない。その人をもう見つけていたけれど、その人が隣にいてくれるはずがないこともわかっていた。その人はもう、その人が隣にいたいとのぞむ人をみつけてしまっていたから。
初めて出逢ったときからずっと、心はその人のものなのに。心はその人をもとめてくるしいのに。その人を想えば想うほど、苦しみばかりがつのる。時たまでも一緒にいられればうれしいけれど、でも。その分だけ余計にくるしくなるだけだ。
どうしてなのだろう。うまれて初めて恋焦がれた人。けれど、望んではいけない人。
『はじめまして』
そういわれてその人が微笑みかけてくれたとき、つめたい心が一気に溶解して、そしてすぐに凍結した。最初からわかっていたことだったのに。その人は自分のものにはならないと、しっていたのに。こんな、つらくてくるしいだけの気持ち。しりたくもなかった気持ち。味わわせたのはあの人なのだから、責任をとってほしい。
横たわる距離。どんなに近づいても、自分がその人にふれることは決してない。もうこれ以上近づいてはいけないのだと、頭では分かっている。けれど、今までがんばって縮めてきたこの距離をいまさらすてられない。近づくためにやってきた努力を捨て去ることは、どうしてもできない。
「すきだよ、芽久利」


ころしてもころしても、それでも溢れでるこの想いを箱につめて、鍵をかけて心の海にしずめよう。一体いくつしずめたのか分からなくなるほどに。海が、飽和するほどに。


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