あそこはどこだったのだろうか。
私は階段をのぼっていた。窓からみえる絵画的な風景から察するに、そこは相当な高さであるらしい。いくつもの建物が灰色の屋上をさらしていた。ちいさな道路には車一つみえない。
階のフロアにつづくであろう場所は、防火扉のようなものでとざされている。あけようとしても扉はびくともしない。ドアをたたいても、声をあげても誰かくる様子はない。
のぼる必要はないのだ。おりればいい。それはわかっているのだ。
だが、爪先はそうおもわないらしい。磁力にひかれる鉄のようにぐいぐいと上をめざしていく。最初の頃はなんとか逆らおうとしていたが、今はそんな努力をやめてしまった。
そうしてどれほどの時がすぎたのか見当もつかなくなった頃、突然目の前に扉があらわれた。私はその扉に手をのばす。扉のきしむ音と洪水のようにほとばしる光――
――そして私は、夢からさめたのだ。
あそこはどこだったのだろうか。
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