「たとえば、さ」
――はじまった。
「私が宇宙人で、ちょうどよくみつけた人間があんただったら、どうする?」
「地球も最近は地球温暖化やらオゾンホールやら紛争やらで大変なんだって小一時間かたってやる」
「あんたにかたれるだけの脳みそあった?」
「うるせぇな」
ま、いいけど、と佳那はつぶやく。
「たとえば、さ。今ここに、タイムトリップしちゃった合戦真っ最中のお侍さんがきたら、どうする?」
「身ぐるみはいで甲冑だの刀だのうっぱらう」
「その前にあんたぶったぎられない?」
「そのお侍は突然風景がかわってビビってるだろうから簡単だろ。その間にうばう。後はしらん」
面倒みてあげなよ、と佳那はつぶやく。
「たとえば、さ。空がわれて自称神様がおりてきたら、どうする?」
「とってかわって俺が神様になる」
「それにしてはあんた神々しさってものがないよね」
「そりゃ俺は今は普通の人間だからな」
そりゃそうか、と佳那はつぶやく。
「たとえば、さ。自分の部屋にもう一人の自分がいたら、どうする?」
「宿題とか追試とか、嫌なこと全部そいつにやらせる」
「相手もそうおもってるかもよ?」
「そん時は肉弾戦だ!」
同じ人間なんだから互角よね、と佳那はつぶやく。
「たとえば、さ。実は自分は王子で、自分のことをさがしている人がいたら、どうする?」
「とりあえずもどって、豪遊するだけして後はにげる。政治なんてしるか」
「豪遊生活になれちゃって、にげることわすれちゃうんじゃないの?」
「逃亡の際には金を持ち逃げ」
どうせなくなるわよ、と佳那はつぶやく。
「たとえば、さ。五時限目のプリントをわすれてきたら、どうする?」
「……あ、わすれてきた」
「バっカじゃないの、あんた」
「うるせー、そんなんいうならみせろ」
「わすれてくるバカにみせるほど私はやさしくないから」
「ひでぇ」
「自業自得」
佳那はバカにした目つきで俺をみた。自分のしっぽを追いかける犬をみるような表情だ。ムカつく。佳那の肩をつかむ。今度は逆襲だ。
「たとえば、俺があんまりにも腹がたってお前をころしたら、どうする?」
「自慢じゃないけど私かるくないわよ。死体をすてる時はどうせなら海がいいわねぇ。さむいのは嫌だから沖縄か熱海の海でお願いね」
「……注文がおおいな」
「山にすてられて草花の肥やしなんてまっぴらよ。それならまだ魚につつかれるほうがいい」
どこがどうちがうんだ。
「たとえば、空からミグ戦闘機にのったロシア人がやってきて、お前をナンパしたら、どうする?」
「シベリアの土地もセットで、戦闘機の操縦者ごと私にプレゼントっていうんならOK」
「……がめついな」
「だいたいミグって旧ソ連時代のものよ?」
そうだったか?
「たとえば、冬山のペンションで殺人がおきて、犯人をさがさないといけなくなったら、どうする?」
「探偵役はめんどくさいから勘弁よ」
「……お前もねらわれてたら?」
「私、人からにくまれるようなことなんてしません」
人を小バカにした目で見たのは誰だ。
「……たとえば、」
ヤバい、ネタがきれてきた。
「たとえば、お前をすきだっていったら、どうする?」
「きらいじゃないわね」
「……どっちだよ」
「キスぐらいならしてあげてもいいけど」
「じゃあさせろ」
「どうぞ?」
佳那に顔をちかづける。
「たとえば、さ」
「キスのときぐらいだまれよ」
「私の弁当がレバニラと餃子だったら、どうする?」
「……」
まけた……。
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