空気のもれる音と一緒に、私の髪が黒くなる。さすが瞬間髪色戻しスプレーだ。髪と一緒に私の心も染められていく、気がする。
全てのメモリを消した私の携帯電話につけた、ねこのストラップ。彼が最初に私にくれたもの。
――私のこと、何も分からないくせに。
私は逃げた。彼の優しさを疎んで、彼のことを分かろうとしなかった。彼は私のことを分かってくれた、唯一の人だったけど。
制服を着るのは久しぶりで、彼の死を悼む席で初めて、まともに着る。なんて皮肉。
――お前には笑顔が一番似合って、可愛いよ。
初めてだった。『可愛い』と言われて純粋に嬉しかったのは。一緒につるむ『仲間』には何度も言われたけれど、いつも疑っていた。本当はそんなこと思ってないんでしょ、と。
――ねぇ、私、もっとまっすぐ生きられるかな?
心の中で彼に訊いてみる。答えは分かっていた。彼ならきっとこう言うだろうな、って。
――お前らしいよ。
ありがとう、さよなら、先生。
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