アスファルトの先はマンション。
懐かしい。
何度彼のためにあたしはここへ通ったか。何度ここで偽りの愛の言葉を聴かされたことか。思い出すと決心が鈍るから、考えを変える。
外見ばかりで中身のない男。結局彼が一番好きだったのは彼自身だったんだろう。
友は言っていた。「彼はやめたほうがいい」って。聞く耳持たずに絶交までして。……あぁ、ごめんね、なんてバカだったんだろう。
最上階にある彼の部屋へ向かう。
彼は他の女と一緒に眠っていた。いい気なものだ。
あたしは彼の子ができた。バカなあたしは嬉しくて彼に言った。喜んでくれると思った。堕ろす堕ろさないでもめて、初めて他の女がいたことを知った。
こんなやつを愛していたなんて。
カレンダー一年分消費するほど。
こんなやつにあたしと子供は殺されたなんて。
『人にやったことは戻ってくるのよ』
彼に向かって包丁を振り上げる。
こんなやつを愛していたなんて。
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