「立ち読みしてるリーマン。あいつがネクタイ。いっつも派手なタイだから」
からあげクンを揚げていた中村が身をのけぞらせて、耳の横で囁いた。
今日から春休みを時給七百五十円で売るのだ。悪友が一緒だったが、期待と不安がごちゃ混ぜになった微妙な感じだった。
「あのアイス選んでるおばちゃんがあおいとり。何でか分かるか?」
「鳥の巣みたいな頭に青い服」
「正解」
中村が言うと同時に客が入って来た。僕は息を呑んだ。絶世の美女という言葉は彼女のためにあるんだと思った。
黒いタイトミニを穿いた彼女は、真っ直ぐに飲料ケースへ向かった。
「天然水のお出ましだ」また中村が囁く。
僕のレジへやって来た彼女は無言でお札を差し出した。
「あ、ありがとうございました」
彼女がレジを離れると、中村が身を寄せて来た。
「お前惚れただろう。彼女はパネェぞ」あごをしゃくる。
店を出た彼女を目で追うと、黒塗りのAMGの助手席に華麗な身のこなしで滑り込んだ。