お別れを告げて


 幼い私にとって、貴方は雲の上の存在でした。
 貴方は格下の輩のようにネクタイは締めず、着物をお召しになっていました。その姿の堂々として勇ましいこと。大人たちが貴方に魅了されるのも当然のことでした。
 時が経つにつれ、子どもだった私も大人になり、ついに貴方を手に入れました。ご尊顔を拝見したときのこの胸の高鳴りは、天然水もかくやというほどの純粋な想いに満ちておりました。
 私は貴方の青い虜です。
 いつも真面目な顔つきをしていらっしゃる貴方。私にはちっとも微笑んでは下さりません。そのお心を憎く思うこともございましたが、それは浅はかなことでした。貴方は私一人だけのものではないのです。
 ああ、貴方とお別れするのがこんなに辛いなんて。胸が張り裂けてしまいそうです。血の涙を貴方に落とし、またの再会をお約束することすらできません。
 さようなら、さようなら、さようなら。
「では、一万円からお預かりいたします」

作者(敬称略) : 種原歩美奈
コメント : 誰もが貴方に恋をする

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