そして、誰も
「覚えている? 皆で秘密基地にしていた廃バス。辺りを埋め尽くしていたシロツメクサ。私ね、あの花嫌いなの」
少女は文庫本に挟まった栞を取り出す。
「ムラサキカタバミから取れる四葉は好き。あまり無いから本当に幸せになれそうでしょ」
四葉のラミネートされた栞の上に掌を乗せる。
「でもシロツメクサはズルしてるみたい。ねぇ、あの頃の合図覚えてる? 基地に入る為の。皆で手の甲に星のマーク描いたよね」
乗せた左手には薄く白い手術用の手袋。
「なんで星のマークなのか疑問にも思わなかったけど……庇ってくれてたんだよね」
ゆっくりと外される手。
透明なラミネートの上に乗る四葉。
「もう……答えはきけないか」
少女が見つめる瞳は既に機能を停止している。その上層部、瞳の……全身の情報を処理する器官も。
「地球人って脆過ぎるわね」
取られた白い手袋。
甲に浮かぶ星の痣。
そして……手袋に残る微かな朱。
作者(敬称略) : 流漣 | ジャンル : SF | コメント : 現代っぽくもホラーっぽくもあります。
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