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彼女の別れ  ―SIDE A―

「君とはもう会うこともない」

 そう言って彼は部屋を出て行った。帰り際に渡された部屋のキーを握り締めて私はただ彼が去っていくのを見つめていた。声を発することすらできなかった。

 現実とは思いたくない――。

 涙が知らずに溢れてきた。入学してすぐ一緒に暮らし始めて2年。このままの時間が永遠に続くと思っていた。絶望と自己嫌悪が溢れ、炸裂し、私は声をあげて泣いた。泣くことしか出来なかった。


 何時間泣いただろう。時計はすでに23時を指していた。喉の渇きを覚えた私が顔を上げた時、ふと棚の写真が目に入った。高校の時の写真だ。
 
 あの時、私は今の彼と同じことをした―。

 そう思うといてもたってもいられなかった。泣き声であることも構わず私は電話をかけた。自分勝手なのはわかっていたけれど、衝動を止めることはできなかった。

「カンタンに行かないから生きて行ける」

 彼の痛みを理解した時、私の新たな人生が始まる――そんな気がしていた。

作者(敬称略) : ロベルト | ジャンル : 恋愛 | コメント : 1つの再会を二つの視点から描いてみました
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彼の思い ―SIDE B―

 車のキーを弄びながら、僕は時計を見た。

 10時14分。

 待ち合わせ時間にはまだ間があるようだ。手近なベンチに腰を下ろし、僕は昨日のことを思い返していた。
 電話先の彼女は泣き声だった。久々に声が聞きたくなった、という彼女は唐突に僕の近況を聞いてきた。なにかあったのかい、とは聞かず僕は素直に近況を話した。卒業から音信がなかったこともあり、僕達は昔話で盛り上がった。そして今日、彼女と会うことになった。

 彼女に何があったのかは分からないし、何故僕だったのかもわからない。けれど、そんなことはどうでもよかった。僕と彼女が再会する。それだけで十分だった。

 真実を知って傷つくより、たとえ愚かでも今を生きたい。

 どこかで読んだフレーズが頭の中に浮んだ。その時には理解できなかったが、今なら分かるような気がしていた。

 10時25分。

 現れた彼女は昔より少し大人びた印象だった。笑顔で手を振る彼女に答えながら僕は立ち上がった。

作者(敬称略) : ロベルト | ジャンル : 恋愛 | コメント : 1つの再会を二つの視点から描いてみました
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