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夜の片隅で

 子どもの泣き声で目が覚めた。汗びっしょりだ。また金縛りか。ここへ引っ越して来てから、ずい分多くなったな。隣では2才の息子が静かな寝息を立てている。横顔を見てホッとした。
 時計を見ると午前2時過ぎ。夫はまだ帰って来ていない。またあの女とお泊まりか。
 洗面所で汗を拭いた。口の中はカラカラだった。鏡を見ると、疲れた顔の私が映っている。
 いいの? このままで。好きな人ができたから離婚して欲しい――。夫にそう言われたのはつい2か月前のことだった。
 離婚する? でも子どもをかかえて、この先どうやって暮らしていこう。仕事、辞めるんじゃなかったな。
 まだ好き? たぶんね。だから夫の気持ちが自分に戻ってくるのを、つい待ってしまう。別れたくなんかない、私は。
 キー。静かにドアが開いた。ふと顔を上げると、包丁を持った夫の姿が鏡に映っていた。はっと息を飲んだ瞬間、金色の闇が広がった。
 最後に見えた夫の腕時計は、3時を指していた。

作者(敬称略) : azumitisato | ジャンル : その他 | コメント :
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