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旅立ち

少女の泣き声はこの灯台の上から、千里も遠くの国まで届くんじゃないかと思えるくらい大きかった。
「あいつってば、『君は僕の人生のキーだ、新しい扉を開ける鍵なんだ』なんて言ってちっとも帰って来ないじゃない!」
 わめきながら頑丈な扉を蹴ってみてもビクともしない。
「待つのはもう嫌!」
 昼に世話係のハツカネズミから与えられたパンを半分ちぎって窓の外へ放り投げた。

「鍵のお嬢ちゃん、どうしたんだい。」
 パンをくわえたカモメが窓辺へ止まった。
「大きなカモメのおじさん、私を連れ出して!」
「見つかると困った事になるからなぁ……」
「あなたに『時間』をあげるわ、それなら良いでしょう?」

 カモメの背に乗り、灯台は見えなくなった。ハツカネズミが『やや、時計から“三時”が消えている!消えた時間を探すのだ……』と大騒ぎしている姿が目に浮かんだ。
 少女の泣き声は、もう笑い声に変わっていた。

作者(敬称略) : 小池圭人 | ジャンル : ファンタジー | コメント : 童話です。四百字って少ない…
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