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夢見るわたしの

 自分の泣き声で目が覚めた。夢で泣いていたらしく、涙が溢れていた。体を起こし頬をぬぐう。嗚咽が漏れた。
 夫がキータイプを止め振り返る。
「大丈夫か?」
「大丈夫。夢を見ただけだから」
「どんな夢だった?」
「覚えてないわ」
「でも泣くほどだ。思い出してみないか?」
 ネタになるかも、と夫は言い添えた。
 夫は小説家だ。彼らしい言葉だと思う。
 しかし、妻が泣いているのだ。それを差し置いてネタなどと、優しさに欠けるのではないか。
 そう思うと、無性に腹が立ってきた。物欲しげにこちらを見つめる夫の視線が怒りを増長する。
 おかしい。そう感じるが神経の昂ぶりは治まらない。
「なにか思い出した?」
 夫が言った。それがキーになる。わたしは手近ななにかを掴み、夫の頭に振り下ろしていた。崩れ落ちる夫。ゴトンと重い音。わたしの手から落ちた凶器だった。枕元においていた、陶器の置時計。床に広がる赤い染み。涙が流れる。自分の泣き声で目が覚めた。

作者(敬称略) : 皐月一三 | ジャンル : 現代 | コメント : はじめまして。
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