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シュレーディンガーのヒト

彼は自分の意識がふと遠のいたことに気付いた。あわてて周囲を見渡すが、まだ彼はコンクリートの部屋に閉じ込められていた。目の前にはボンベがひとつだけ。その静寂は腕時計の音でさえも大きく響いて聞こえるほどだった。

そして、また意識が遠のく。次の瞬間、彼の目の前に彼自身の姿が現れた。彼は驚いた。

目をこすってみても、やはり彼の「分身」はそこにいた。彼が状況を把握する間もなく、ボンベからは白いガスが噴出した。ガスは床に充満し、海のように波打ちはじめる。

彼と分身はあわてて立ち上がって、息を止めた。だが分身は咳き込みだした。そして、分身はそのままガスの海へ沈んでしまった。彼は思わず叫んだ。悲鳴とも泣き声とも付かないその声は部屋をこだました。だが、彼の意識もまた深い海へと沈んでいった。

キー、と扉が開く。そこに初老の教授と数人の学生がいた。
「量子論とはこういうものです。扉を開けるまで気絶したか否かは不確定なのです」

作者(敬称略) : あきら | ジャンル : SF | コメント : 有名な「シュレーディンガーの猫」
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