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泥棒

「待て!」
 僕は細い道を走っていた。絵を盗んだ奴を追っているのだ。
 しかし、まあ、待てと言われて待つ泥棒は居ないわけで。奴は階段を駆け上って、ある店に入った。どうやら付け爪を売っている店らしい。
 男が一人で入るのは目立つだろうが、そんな事は気にしていられない。僕も当然、後を追って店に入る。
 と、入り口付近で一人の女性とぶつかった。その女性は小さな悲鳴をあげる。僕は条件反射的に詫びの言葉を口にした。
「大丈夫です。それより一体何を追っていたんですか?」
 その女性に訊ねられた。何か見ているかもしれないと思い、答えようとして、僕は不思議に思った。
「――どうして僕が人を追っていたと気付いたんですか」
 女性は最後まで聞いていなかった。途中で脱兎の如く駆け出したのだ。
「あ、待て!」
 当然、叫んでも待つ泥棒は居ないわけで。ま、僕も人の事を言えた義理じゃないけど。
 畜生アイツめ。あの絵は僕の獲物だったのに!

作者(敬称略) : 夜川深夜 | ジャンル : その他 | コメント : ミステリを書きたかったんですが……
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