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不幸な少女

 私の指に爪はない。
 生まれたときからなかった。みんな私の指を見て嘲笑う。
「変なの! 何故こんな指なのかしらね?」
「面白いねぇ。こんなの初めて見たよ」
 私のお母さんは顔を赤らめていた。
 お母さん、なんて事をしてくれたんだ。爪さえあれば、私は完璧な美人だったのに。
 爪さえあれば、誰もが私に見とれる。きっと、いや、絶対にそうだ。
 私は階段を上がった正面にいる。だから、階段を上がってきた人全員に見られる。
 早くここから立ち去りたい。もう恥ずかしくて嫌。解放して。
 誰かが階段を上がってくる。その人は私を見てすぐに言葉を発した。
「どうして爪がないのかい? わざと?」
 わざと、だなんて――そんな筈がある訳ない。
 みんな、私の気持ちなんて知らないでしょうね。みんな酷い、お母さんも酷い。
 ……誰か、今すぐ私に爪をつけてよ。

 絵の中で動けない私は、次に来る客を眺めた。

作者(敬称略) : 金澤蘇悠 | ジャンル : その他 | コメント : 初投稿。ジャンルをどれにするか迷いました
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