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フリーネイリスト

 少女の爪に描かれた風船の絵を丁寧に消し、私は新しい絵を描いた。澄み切った青空に伸びる茶色い枝、その上から桜の花びらをかたどったストーンを散らしていく。
 完成した絵を見て、彼女は言った。
「私もこんな仕事してみたいなー」
「階段の上で人の爪に絵を描く仕事?」
 私は原宿駅の周りで仕事をしていた。どこかの階段でマニュキュアを並べれば、そこが私の仕事場になった。
「ミもフタもない言い方。ねえ、私にもできるかな?」
「じゃあ、ひとつテスト。私の絵と前に描いてあった風船と、どっちが好き?」
「もちろん、この桜のほうがいいよ」
 私はほほをゆるめた。
「あなたには、才能ないかもね」
「えー、なんで?」
「なんでもよ」
 風船の絵を描いた人を私はよく知っていた。彼女はすぐ隣の渋谷で、同じように階段で絵を描いている。私はいつか彼女に会おうと思っていた。
 彼女が「才能ない」と言った女の子がどれだけ成長したか見せるために。

作者(敬称略) : 松筆 | ジャンル : 現代 | コメント : なんとか400字以内にまとまりました。
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