「夢」水泡に帰す
・・・父さん。
売られんとしている屋敷の中で、主となるはずだった青年が歩いている。
「夢」だったのか?すべて・・・
広すぎるほど広い屋敷の中で、青年が階段を上っていく。
なら自殺した父さんはなぜ生き返らない?踊らされた者もみんな「夢」の一部なのに・・・
どこかの宮殿かと見紛うばかりの屋敷の中で、青年が踊り場の一枚の絵の前で立ち止まった。
・・・もう二度と見たくない。「夢」なんて。
世界的な名画だということも青年にとっては関係なかった。ただ力の限り絵を引っ掻く。爪の間に脆い絵の具がこびりついた。
「夢」はいつか覚めてしまうから。そして「夢」の中で人は変わってしまうから。
青年は絵を上ってきた階段に向かって投げた。崩れ、壊れ、転げ落ちたその絵は「夢」そのものであった。
一九九一年十月、今ぞ我が春と燃え、春霞のように脆くも消えた「夢」の燃え残りたちが、ロストディケード〜失われた十年〜の到来を告げていた。
作者(敬称略) : 天城 明人 | ジャンル : シリアス | コメント : 我が処女作です。一気呵成に書きました。
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