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別れ話の話

「あたし達、一生寄り添っていくのは無理ね」
 唐突に髪の長い彼女はそう言った。
「何がいけなかった?」
「貴方もだし、私もいけなかったのよ」
 彼女はテーブルの蒼いバラを触りながら続けた。
「人間は誰でもこの花の様に棘を持っているわ。近づけば近づくほどその棘は刺さって、相手を傷つける。だから、こんな風に包帯でまいて、お互いが傷つかないようにするの」
 グルグルと、包帯をまきつけていく。
「貴方から見てあたしは、何だった?」
「バラだよ」
 おくびもなく、僕は答えた。
「貴方はからあげね」
 変な例えに目を大きくした。
「だからあたし達は余計に駄目だったのよ。から揚げの油は包帯にしみこんで、バラをだめにするわ」
 そう言った彼女の顔に、疲労が見える。
 声は、かけれなかった。
「別れる前に言っておくわ。……他人なんて、自分を映す鏡でしかないのよ」
 どういう意味? そう聞こうとした時。

「じゃあね」
 そう言って髪をなびかせ、彼女は僕の下を去って行った。

作者(敬称略) : 雪流 | ジャンル : 恋愛 | コメント : サルトル曰く「他者の地獄」
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成金と赤いバラ

 彼らは赤いバラを守っていた。誰から命令されたわけでもなく、誰もが誰も、同じ立場にいて、同じ意志でそれを守っていた。
 一方でそれを奪おうとするものがいた。唐揚の如く脂ぎった、成金の果ての豚と言っても過言で無い存在。彼は、金で雇った人間を使ってそれを奪おうとしていた。
「この戦いは何時まで続くんだ?」
 塹壕の中で一人の男が呟いた。
「どっちかが諦めるまでだよ」
 塹壕の外を見ながらもう一人が呟く。
 砂埃が舞い上がった。
 襤褸切れをきた、包帯まみれの人間がこちら側に向かって走ってくる。数は、二十。
「来た」
 そう言いながらライフルの照準を合せる。
「傭兵を雇う金はあっても、武器を与えはしない、か。なんでだ?」
「最低の経費で最大の効率を上げる。ただそれだけだと思うよ」
 乾いた音が周囲で響き始めた。
「なら武器を与えたほうがいいだろ?」
「きっと、人命の方が彼にとっては安いんだよ」
「馬鹿みたいだ」
 成金と赤を守る男達の戦いは続く。

作者(敬称略) : 雪流 | ジャンル : 現代 | コメント : 赤色からは○産主義を……
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