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包帯はどこ?

「おーい、包帯知らねぇ?」
風呂から上がって居間に入ると、息子が座卓の上に唐揚げを置いてテレビを見つめていた。
「知らねぇ」
息子が唐揚げをひょいと口に入れる。それを見てちょっと口を尖らせてみたくなる。
「怪我人の頼み聞いてくれよぉ」
「怪我っつったって手の小指骨折だろ? んな大したことねぇって」
「んだけどさぁ」
ちぇっ、かわいくねぇの。
「母さんは?」
「友達と食事」
息子がテレビを見つめたまま答える。ますますかわいくねぇ。
「おかしいなぁ、本当にここになかったか?」
確かに座卓の上に置いたのだ。母さんの作ったバラのテーブルクロスの上に出したのだ。
息子は黙って唐揚げを咀嚼している。
「おいおい座卓の上にこぼすなよ。染みは取れねぇんだから」
「うるせぇ」
んだよ。少しは父親を大事にしろよぉ。
「いいや、布巾かなんかで」
独りごちて台所に入り、何の気なしにゴミ箱を覗く。
「あっ」
息子が弾かれたように立ち上がり、どたどたと階段を駆け上がっていく。
叱る気にもなれず、「あんにゃろう」と舌打ちする。
唐揚げの油が染みついた包帯は、使い物になりそうもなかった。

作者(敬称略) : ししゃも | ジャンル : 現代 | コメント : 父親と息子のとある風景
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