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ギプス

「一度やってみたかったの」
 取りだされたのは黒の油性ペンだった。俺にむけてくる。これは夢だ。夢ならさめてくれ。
「やめろー!!」
「私からあげる、ギプスのお礼」
 確かに、二人乗りのバイクの事故は俺のせいだ。彼女の左手の、包帯でつられたギプスは痛々しい。彼女にはわるいことをしたとおもうし、恨まれるのも仕方ないとおもう。だけどだからって、これはひどすぎる。
 そのペンをしまえ! うわぁくるなぁっ!
「うっ」
 何年ぶりかに涙がでた。しびれのように激痛が全身をはしる。いたくて呼吸ができない。
「じゃあね、また来る」
 俺の頬にかるいキスをして、彼女が病室からでていった。次にあったらバラバラ死体にしてやるぞ!
 意気込んだ俺の目に、彼女のかいた丸っこい文字がはいった。涙でかすんでよくみえないけれど、なんとか読みとる。
「素直じゃないな」
 笑いがもれた。足の白いギプスにかかれた黒い文字は、まるで模様にみえた。


『またバイクに乗ろうね』

作者(敬称略) : 種原歩美奈 | ジャンル : ギャグ | コメント : 色々苦労してかいてみました。
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