ともだち
僕は走った。
どうしても伝えなければならなかったから。
シーツとスプレーをランドセルに詰め込んで全速力で走った。
かけっこは得意ではないけれど、今なら誰にも負けない気がした。
走りながらあいつのことを考えた。
あいつがこの小さな町に転校してきた日のこと。
いつのまにか仲良くなって町が見渡せる丘に秘密基地を二人で作ったこと。
けんかしたこと。
僕が飼ってたネコが死んだ時、日が暮れるまで一緒に泣いたこと。
大きくなってもずっと友達だと誓ったこと。
風邪を引いた時、電話くれたけど照れくさくてうまく話せなかったこと。
昨日の夕方、あいつがとても大切にしていたロボットを僕にくれたこと。
また引越しすると言われたこと。
僕は何も言わずロボットを握りしめ家に帰ったこと。
ときおり目からこぼれる涙をトレーナーで拭いながら僕は走った。
基地に着きシーツを広げスプレーを吹きかけた。
あいつが乗ってる電車にむかってそれを広げた。
『ありがとう』
作者(敬称略) : haretokidokiyukilink | ジャンル : その他 | コメント : 400字ぴったり!
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男らしさ
「おいで」両手を広げタマを呼んだ。
見向きもせず背伸びをして部屋を出て行った。
ネコまでも・・・タマと一緒に亜希子が俺のアパートに転がり込んで三ヶ月が過ぎた頃だった。
けんかの原因は些細なことだった。俺があいつのヘアスプレーを勝手に使ったから。
と言っても俺が買ったものだ。
この三ヶ月いつだってあいつに振り回される。
こないだだってそうだ。
夕飯は一緒にって言うから作って待ってたのに、外で食べたいって。
帰ってきたらガツンと言ってやるんだ!
今日こそは男らしいところをみせてやるんだ!こぶしをぎゅっと固くにぎりしめた。
その時、亜希子の携帯が鳴った。
どうやら置いて出て行ったらしい。
しばらくして玄関でドアが開く音がした。ガツンとガツンと・・・呪文のように唱えた。
「ただいま」
「オイッ」
「何よ?あっ、これ、あげる」
その手には新しいスプレーが握られていた。
「で、何よ?」
「さっき電話鳴ってたよ」
俺はいつだってあいつに振り回さる。
作者(敬称略) : haretokidokiyukilink | ジャンル : 恋愛 | コメント : こういうタイミングの悪さない?
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ダイエットスプレー
「いただきます!」真理は持っていたスプレーを自分に吹きかけた。
その瞬間ほのかな柑橘系の香りが真理をつつんだ。
昨日届いた『ダイエットスプレー』をたった今使ったところだった。
今までに、さまざまなダイエットを挑戦してきた。
りんご・こんにゃく・断食・油抜き・炭水化物抜き・・・。
どれもこれも痩せるどころか結局リバウンドの繰り返しだった。
しかし『スプレーするだけで簡単ダイエット』この広告を見た真理はすぐに電話をした。
空になったスプレーを見つめ「こんなんで本当に痩せるのかしら?」半信半疑の真理だったが、百本入りスプレーは説明書通りに全部きちんと使った。
前から飼いたかった猫をあきらめて三十万円もするこのスプレーを買ったのだから。
そして真理はリバウンドすることなく見事に理想の体を手に入れた。
スプレーの説明書には『決まった時間に毎食必ずレシピ通りの食事を作り、食前にスプレーするだけ』と書かれてあった。
作者(敬称略) : haretokidokiyukilink | ジャンル : 現代 | コメント : あるいみ一番難しいダイエット?
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