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娘が月にいちど

 娘は月に一度、テレビ電話を掛けてくる。
最初のうちは楽しみにしていたものの、画面にいつも髪を白髪染めスプレーで濡らしいる娘が映り、近頃、不安になっていた。
「おまえ、髪を乾かすまでの、暇つぶしにかけてるだろう?」
「やーね。そんなことないわよ」
目を反らして、そう言った娘の後ろでランの声がした。画面の端にランの姿が入る。ランは可愛い声で、飯まだ?と娘に甘えている。娘は、うるさいわね、少し待ってよ、とランを突き放す。
「おいおい可哀相じゃないか。わしのことはいいから、朝ごはんの用意してこいよ」
「そお?それじゃあ、悪いけれど待っててね」 
 画面の奥に向かって娘が遠ざかっていく。その後をランが小走りで追う。娘が朝ごはんを差し出す。すると尻尾を振って喜ぶ猫。その横で娘が確かめるように自分の髪を触る。
「あっ。お父さん、私、用あるから、またね」
「なっ、おい」
 電話が切れる。
どうやらもう、髪も乾いたみたいだ。

作者(敬称略) : 匂坂のずみ | ジャンル : シリアス | コメント : 日常的によく見かける哀愁のようなもの
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