Task a Holiday
人工強化された彼の神経内で疑似電磁パルスが今か今かと時を待つ。
日本宇宙軍に籍を置く彼は、好戦的になっている自らを律し、ぐるりと周囲を見渡した。
空港の巨大滑走路。スペースプレーンの発着場。その中心付近、彼から数十メートル先で地球外逃亡を企てた犯人が彼を睨んでいる。
男の足下には肉塊となった死体が転がっていた。犯人の側で十、辺りでその三倍程の死体が地に伏せている。幸い、強風により血臭悪臭は飛散していた。
ねこそぎやられてしまった警察に落胆の溜め息を零すと、彼は頭蓋にインプラントされた衛星電話を起動させ、数秒で任務の最終確認を行う。「コピー」と了解の意を無音で送ると、彼は犯人に向き直り、脳内である種のトリガーを鋭く引いた。
刹那、感覚が引き延ばされ、世界が動きを緩める。その時の中、せっかくの休暇を台無しにされた彼は、光速の踏み出しと共に、苛立ちを込めて単分子加工された愛刀を抜き放った。
作者(敬称略) : AI | ジャンル : SF | コメント : 近未来のある公務員の話(お題二つが穿った使われ方してます^^;)
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Boy Meets Oneself
仔猫がいた。街の埃に薄汚れ、純白を濁した仔猫が。
小雨がぱらつく初冬の深夜。俺は交通量の多い国道脇でスプレー片手に、路上の芸術(ストリート・アート)に勤しんで……いや、他にすることも見つけられず、ただ何かに何かを印(しる)していた。
凍えているのか、もしくは本能から弱った声を出せば危険だと悟っているのか、無造作に放置された仔猫は必死に無音の泣き声をあげている。
そこに友人が近づいてきた。友人は呼び掛けに応えない俺の視線を追い、夜露で濡れた段ボールで震える仔猫を認めると、格好のキャンパスだとポスターカラーを向ける。が、ノズルが押し込まれる前に俺は何故だか友人を押し退けていた。
俺は仔猫を抱え逃げた。走った。
後ろの怒声を、懐で着信を報せる携帯電話を無視し、俺はさらに走る。
十幾つ目かの角を曲がった時、ジャンパの内側に居た仔猫が声を出して鳴いた。俺は足を止め、一面を灰色の雲に覆われた夜空を仰ぐ。
「気にすんな……。俺も同じだよ……」
作者(敬称略) : AI | ジャンル : シリアス | コメント : 捨てられた猫と捨てた自分と。
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デンワノムコウ
「やばっ! こうなったらっ!」
久しぶりに帰ってきた故郷の村は、今や滅びの時を迎えようとしていた。獣操術で大量の殺人鼠を使役した呪術師が、私達、召喚師の隠れ里を襲ってきたのだ。
「はははっ! 圧倒的じゃないか、我が軍は!」
村を囲う外壁の上で馬鹿笑いを繰り返す襲撃者を視界に収め、私は腰袋から奥の手である召喚祭具を取り出す。祭具から反射した陽光が呪術師の顔を灼いた。
「ぐっ! そ、それは……まさかっ!? 古の召喚具『携帯電話』!?」
「その通りよ! さぁ契約により馳せ参じろ! ねこの王!」
瞬速のタイピングで十一桁の番号を打ち込む……のは面倒だったので、短縮コールで私は一番月額料金の高い奴を呼び出す。
「ちょ! おま! うはっ!」
驚いた様子の家よりも大きな二足歩行ねこが液晶画面から現れる。
「デートの準備中だったり……」
私はヘアスプレー片手にブラッシング途中だったっぽい王のケツを無言で蹴飛ばした。
作者(敬称略) : AI | ジャンル : ギャグ | コメント : 喚ばれる側の都合も考えて欲しいよね
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ガイドライン
スプレー式消毒剤を喉に噴射すると、あたしは発声の練習をした。
とある企業の電話受付ルーム。ちょうど暇な時期と休暇者が重なったらしく、夜からのシフトは新入のあたし一人だった。
『変な電話は無言で切りましょう』
デスク毎に置かれた指示書を読み終えた時、時計は二時を回っていた。そこで今日初めての電話が鳴る。そつなく応え、数分で注文を取り終えた。
受話器を置くと同時にまた電話が鳴った。
思わず飛び上がる。あたしの電話じゃない。
真後ろの電話が鳴っている。
仕方ないので振り返る。
パソコンは電源が落ちていたが、電話は鳴っていた。
取る。
お決まりの挨拶を送る。だが、返事がない。
もう一度挨拶。次は返事があった。
予期せぬしゃがれたねこの声。
恐怖を感じながらも「どこにおかけですか?」と聞き返す。聞き返してしまった。
直後、突然にモニターが付く。
『変な電話は無言で切りましょう』
血のような文字に声を失う。背後からはねこの鳴き声が迫ってきていた。
作者(敬称略) : AI | ジャンル : ホラー | コメント : 注意書きには御注意を……
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