[ 第一回目次へ / サイトトップへ ]

硬派な男

そんなことないよ。
彼、顔が恐いっていうか、いつも怒ってるようだけど、話すと気さくだし。
イメージが先行しちゃってるのよ。
応援団の団長で学ラン着てさ、空手の有段者で、体つきもがっしり。
『硬派な男』って思うよね。
私だって、つきあう前はそう思ってたし。

でもね。
この前、家へ遊びに行ったら、見たの。
ネコ柄のパジャマ。
やだ、笑わないでよ。
でも、驚いた。
あの外見で、けっこうカワイイの着て寝てるんだなって。
前は「俺は携帯電話は好かん」とか言ってたけど。
お願いしたら持ってくれたし、メールも毎日くるよ。
一番驚いたのは、この前のデート。
彼が財布出そうとして、何かがポケットから出てきて落ちたの。
なんと催涙スプレー。
なんでこんな強そうな人が、こんなの持ってるんだろって。
思わず、どうしてって聞いたら「何かあったらきみを守るため」だってさ。

愛想が尽きただろって? 
そんな事ないよ。
そんなギャップも、彼の魅力だよ。
もう大好き。

作者(敬称略) : dis | ジャンル : 恋愛 | コメント : こんなのどうでしょ?
感想は感想掲示板でどうぞ。
[ 第一回目次へ / サイトトップへ ]

「うちのおかあさんは、びょうきで、ずっとねこんでいます」
麻衣の作文を読んで、担任の綾子は驚いた。
1年2組は『家族』という題で作文の宿題を出した。
事前にどの生徒の家庭も、父母ともに問題なくいる事を確認した上でだ。
そうでなければPTAから苦情がくる。
小林麻衣は、どこかませた感じの女子だ。
頭の回転もいいし、クラスの中心的存在でもある。
若干、人を馬鹿にする口調の時もあるし、禁止されているヘアスプレーやアクセサリーを学校へ持ち込む事もあるが、悪い子ではない。
いい加減な嘘を書くマネはしないだろう。
綾子は、麻衣の父親に連絡をとった。
事実ならば、無神経な宿題を出した謝罪をしたかった。
電話で事情を話すと、父親は言った。
「お恥ずかしい話でして。つい先日、妻は家を出ていったきり戻らなくなりまして。娘は毎日妻を待って、学校以外は外出もしない状態なんです」
電話を切り、独り家の中で母を待つ麻衣の姿を、綾子は想像した。

作者(敬称略) : dis | ジャンル : 現代 | コメント : 小学校の作文
感想は感想掲示板でどうぞ。
[ 第一回目次へ / サイトトップへ ]